影縫い/蒸発王
立てて
ビルの谷に潜っていく
子猫の目にはすっかり
夕焼けがはいりこんで
彼女を思い出すのか
子猫は小さく鳴いた
そんな
何度目かの夕焼け
突然
チャイムを鳴らす音が
何度も何度も響いて
開けると彼女が立っていた
彼女の目も
夕焼け色に染まっていて
真っ赤だった
あんなに真っ赤な夕焼けなのに
あんなに大きな火が燃えているのに
隣に誰もいないだけで
とても
寒い
そう言って
泣いた彼女は
走ってきた子猫を
彼女はしっかりと抱きとめて
何回も謝って
きっと私にじゃなくて
子猫
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