影縫い/蒸発王
手負いの影は怖くて
ひたすらに
悲しい
だから
ほつれている
黒い部分を見ると
ほっておけなくて
鞄にはいつも
針と糸が入っている
明朗で明晰で
上司からの期待も厚く
全ての先頭を走っていた
『彼女』の影は
小さな子猫の形をしていた
子猫は後ろ脚を一つ
亡くしていた
残りの三本の脚で
懸命に走ろうとするが
歩みも遅く
ずんずんと進む彼女の後ろを
置いて行かれないように必死に
ひょこひょこと追っていた
彼女の目は
そんな子猫の姿を映していないようだった
少し休んでみてはどうか
という提案に
彼女はそんな時間は
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