「 ケタ。 」/PULL.
栄転先のムショで、
ヤクチュウはわるいものを覚えた。
たっぷりわるいもの覚えさせられた。
ムショから帰ったヤクチュウの周りには、
誰も、
いなかった。
ケタとそのセンパイ。
ふたり殺したヤクチュウは、
でも怪我ひとつなくて、
ムショに戻った。
出てくる頃は、
倍の年になってる。
収骨の時、
ケタから針金が出てきた。
砕けた顎を止めてた、
針金だった。
ケタのお母さんが、
それをくれた。
「慶太をいつもいつも、
ありがとうございました。」
泣きながら、
何度もそう言って、
おれに針金をくれた。
焼けた針金は、
くすんだ
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