菩薩/ならぢゅん(矮猫亭)
二ヵ月後、姉は二度目の手術を受け、それからは入退院を繰り返す日々。二人が再び旅枕を並べることはついになかった。
十年におよぶ闘病生活の末に姉が息を引き取ったのは半月前のことだ。緊急入院の知らせに駆けつけた妹がひとまず家に帰った直後、いったんは持ち直したかに見えた病状が急変し、一人娘の腕の中で静かに息絶えたそうだ。
――お母さんは誰にも見せたくなかったんだと思うの。長年勤めた養護教諭の職を辞し母の最後の日々を支えた娘が言う。白髪が看護の労苦を偲ばせる。
――わたしにはすっかり甘えていたけれど、きっと他の人の前ではしっかり者でいたかったんだわ。
だが僕は思った。あるいは怖がりの妹に
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