王女メリサ4/atsuchan69
ゆくのです」
「大勢の人たちを幸せにするためにですね」
「いえ。魔王のためにです」
「はい。魔王ですか?」
詩人はそこでパンをちぎると口にほおばりました。
「はい。彼――魔王は地底のとても深いところにいて絶えず苦しみもだえています。そのため誰かがいつも美しい曲や歌をうたって同情と慰めを与えなければなりません。すべての音楽が素晴らしいのは、彼に対する憐れみの念がふかく人間の領域をこえて働いているためなのです」
「知りませんでした」
「美とはそのようなものです。しかしどれほど美しい旋律であろうと、また甘美な調べであろうとも魔王の心の闇を永遠にふさぐことはできません。底なしの闇はけして美
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