挙動不審者/hon
には、乾いて固まった血がこびりついていた。先ほどの鳩の群れから脱落した一羽であることは間違いなかった。あまりグロテスクな感じはしなかったけれど、それは現在の喜ばしい印象にそぐわしくないものに思えて、私は上手に軽やかに無視することが出来た。
おーい! 私はここだよ、ここにいるよ!
また海が見えたとき、今度は声に出して叫んでみた。沖合いの海の上に浮かぶ白いヨット。叫んだって届くはずはないけれど、あんな遠くにもちゃんと人がいることが不思議で、無性に嬉しかった。
母は私だけに笑いかけていた。そのとき、私はたしかに母の顔を知っていた。
風は止むことなく吹きつづけて、海の輝きは一段と明るさを増
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