挙動不審者/hon
 
抜けていって、意識は暗闇へと垂直におちていった。


 視界の中央にいくつもの光点が横一列にならんで、上に下に細かく揺れていた。
 注意して見てみると、それは波間にたわむれて反映する光であり、その下方をのんびり横切って進むヨットの白い帆が、背景の青さのなかにくっきりと際立っていた。
 それは海だった。
 私は山あいの斜面を歩きながら、海を見ていた。
 おーい、おーい! 私は遠くを行くヨットに向かって心の中で叫んでいた。
 その眺めの斜め下から上方へ、旋回しながら羽ばたいて通りぬけていったのは、鳩の群れだった。
 私の右手は母の左手とつながれていて、母は薄い茶色の日傘をさしていた。
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