鬼の園 〜サイレント〜/こしごえ
 
ているのだった

― お母さんただいま
と手には手折って来た花をにぎりしめた
少女が心配そうに
私の顔をのぞきこむ
― 冷蔵庫にゼリーがあるわよ
  手を洗ってから食べてね。お花ちゃんは
  花瓶にお水を入れて生けてあげてね
少女はいそいそと部屋を出ていった
私がそこへ

庭の鬼灯(ほおずき)たちを
冷徹に澄んだ瞳が見つめていた
彼女のうろこはしめっている光を
ほそく地面にくゆらせて
空腹な紫の舌をちろちろとしていた

― 火のないところに煙はたたぬ

私のいのちの残り火に
壊れかけの時計を焼べて
生きながらえる

この家は静まりかえっていた
[次のページ]
戻る   Point(9)