鬼の園 〜サイレント〜/こしごえ
ているのだった
― お母さんただいま
と手には手折って来た花をにぎりしめた
少女が心配そうに
私の顔をのぞきこむ
― 冷蔵庫にゼリーがあるわよ
手を洗ってから食べてね。お花ちゃんは
花瓶にお水を入れて生けてあげてね
少女はいそいそと部屋を出ていった
私がそこへ
庭の鬼灯(ほおずき)たちを
冷徹に澄んだ瞳が見つめていた
彼女のうろこはしめっている光を
ほそく地面にくゆらせて
空腹な紫の舌をちろちろとしていた
― 火のないところに煙はたたぬ
私のいのちの残り火に
壊れかけの時計を焼べて
生きながらえる
この家は静まりかえっていた
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