創書日和「炎」 かげろう/逢坂桜
いうより、本当はあなたのだったのよ。
めずらしいあたしに、眼を向けてくれただけ。
お返しするわ」
声を出すのもつらいはず。
主治医の言葉に、嘘はないようだ。
「思い込みの激しい人だから、すぐには無理だと思うけど。
気長に待ってあげて。
いつかはあなたに気づいて、寄ってくるわ」
天井だけを見つめて、とてもとてもちいさな声で。
「あたしが先に死ぬから、あの世で、出迎えてあげる。
あなたとあの人、どちらが先に来るかしら」
死者と生者をはさむ川。
あの人はどちらを選ぶだろう。
彼女はどちらの手を取るだろう。
「い
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(9)