創書日和「炎」   かげろう/逢坂桜
 
いうより、本当はあなたのだったのよ。
   めずらしいあたしに、眼を向けてくれただけ。
   お返しするわ」
  声を出すのもつらいはず。
  主治医の言葉に、嘘はないようだ。
  「思い込みの激しい人だから、すぐには無理だと思うけど。
   気長に待ってあげて。
   いつかはあなたに気づいて、寄ってくるわ」
  天井だけを見つめて、とてもとてもちいさな声で。
  「あたしが先に死ぬから、あの世で、出迎えてあげる。
   あなたとあの人、どちらが先に来るかしら」
  死者と生者をはさむ川。
  あの人はどちらを選ぶだろう。
  彼女はどちらの手を取るだろう。
  「い
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