創書日和「炎」   かげろう/逢坂桜
 
「いままで楽しかった。友人と呼べるのはあなただけよ」
  いのちがゆらめく。
  「あたしのいちばんだいじなモノをあずけるのは、あなたよ」
  さいごの、ほのお。

  最期の炎。
  陽炎のように儚い女の、燃えさかる炎。
  わたしには、なによりまぶしく、なによりあつかった。
  彼女が命をかけて紡いだ言葉は、いまもわたしを縛っている。
  夫が心を捧げたのは、あの女なのだ、と。

  ―あの春の日、彼女にすべてを捧げたのは、わたしもまた―

[グループ]
戻る   Point(9)