創書日和「炎」 かげろう/
逢坂桜
「いままで楽しかった。友人と呼べるのはあなただけよ」
いのちがゆらめく。
「あたしのいちばんだいじなモノをあずけるのは、あなたよ」
さいごの、ほのお。
最期の炎。
陽炎のように儚い女の、燃えさかる炎。
わたしには、なによりまぶしく、なによりあつかった。
彼女が命をかけて紡いだ言葉は、いまもわたしを縛っている。
夫が心を捧げたのは、あの女なのだ、と。
―あの春の日、彼女にすべてを捧げたのは、わたしもまた―
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