瑪瑙の牡鹿/蒸発王
夜明けを待って
鹿の頭を抱きかかえると
山に分け入る
薄く地面を包んだ初雪が
あたたかな冬の風に
ゆっくりと
ほどかれ始めた
冬の終わり
群青に薄らぐ夜の中を
緑の恩寵の懐へ
深く深く歩みを進める
山間を縫って
やがて
滝の滴る
谷間に出た
唖然とした
谷間には
白い滝が糸のように細い流水を
何本も張り巡らしていて
包む様に囲んだ岩壁には
矢張り細かい縞模様が
何十本と横切ってあった
白黒だと思った岩壁の色は
翡翠と見紛うばかりの
一面の
紺緑
山の中にあるはずなのに
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