瑪瑙の牡鹿/蒸発王
 


父は
おかしくなっていたのだ
私の瞳をくりぬいて
其の瞳の美しさに
すっかりやられてしまっていたのだ

もう一度
あの瞳をくり貫きたい
あの
美しい
瑪瑙(めのう)の瞳を


たーん たーん
たーん たーん


鹿の瞳はくり貫かれ
その記憶を封じるために
私は瑪瑙(めのう)を食べていたのか
私は
鹿の左目から流れる涙を拭いて
スケッチブックを開いた
朝になったら山へ行こう
お前の行きたい所へ
そう呼びかけて
私は一晩中先刻見たあの景色を
スケッチブックに描き殴った



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