瑪瑙の牡鹿/蒸発王
たーん たーん
たーん たーん
耳元で
あの銃声が聞えた気がして
目を覚ました
水のしたたる音も聞える
家の様子を調べると
壁の鹿が
残された左目だけで
泣いていた
気付けば私の右目も
同じように涙を零している
私の右目と鹿の左目が合った
しぼりこむように
目蓋の裏に景色が浮ぶ
細い滝の流れる
薄く暗がった谷だ
色は良く見えないが
白い岩壁に囲まれていて
そこで牡鹿が岩壁を舐めている
甘美な味だ
牡鹿の目は私の無くした糖蜜の瞳にそっくりで
其れに銃を構える男がいた
父だ
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