瑪瑙の牡鹿/蒸発王
な牡鹿で
角も残った左目も
糖蜜色に艶々と輝き
自分が此れと同じ右目を宿すことは
失った事よりも嬉しく思えた
私は壁にかかった其の鹿が好きで
良く鼻筋を撫でた
私が悲しければ鹿は悲しそうで
私が笑っていれば鹿は嬉しそうだった
奇妙なことと言えば
そう
矢張り物心ついた頃から
私は瑪瑙(めのう)を舐めさせられていた
父は何処から取ってくるのか
貝殻のような大きさの瑪瑙を
毎日私に渡して
溶かして飲み込むようにと言いつけていた
何故か
私が口に含むと
瑪瑙(めのう)はドロップのように
甘
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