「あいつについて」/広川 孝治
 

そいつの貧相さを俺は思い知っていたからなんだ
だけど誰より成就を祈っていたのも俺だったのさ
そしてそいつは見事にその恋を射止めたんだ、不思議なもんだね





そいつが小学生のとき
米屋のけんちゃんが白血病になった
けんちゃんが学校に来ないことにクラスのみんなが慣れていく中で
そいつが毎日手紙を書いてやってたのを俺はよく知っている
けんちゃんはやせ衰えた体をベッドに横たわらせ
そいつの手紙の束を枕もとに置いて息絶えた





そいつが中学生のとき
一番仲の良かったリョウが高校受験に失敗した
そいつは慰めるふりをして

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