夢の経験/前田ふむふむ
約のない夢のなかを、
泳いでいたのがわかる。
おもわず、夢の捨て場所に立ってみても、
暗闇はかたく、わたしの手を、
見慣れたなつかしい場所に、押し戻すのだ。
生きた長さだけ、かわいた瞳孔を、
夥しい夢の破片が洗う。
閉じたこころが寝返りを打てば、
夢の十字路が、砂塵を立てて、見え隠れする。
かすかに見える。
世界の弁証法をうたった宴が、行われた木に
逝った父が立っている。
溢れる笑顔を浮かべて。
わたしは、巧みな織物のように、流れる父の笑顔を、
始めて見たのかも知れない。
駆け寄って、父に話さなければならないだろう。
そこには、父もわたしも、二度と行くことは
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