夢の経験/前田ふむふむ
とは、
できない。と
凍るようなわたしの手は、父の笑顔を切り裂いて、
灰色の葬祭場に、ふたたび運ぶのだ。
わたしの手は、いつまでも血にまみれている。
父を葬った、洗ってもとれない鮮血の跡をなぞれば、
この口語の時代に浸る法悦の声がささやく。
せせらぎのような、みずの音をたてて、
途切れることなく、優しさを滲ませて。
こうして、古い砂漠に、垂直する貧しい雨の流れが、
ふたつあった夜は、わたしの背中を、過ぎてゆくのだ。
振り返ることはない。
綴りこまれた、かなしい夢の波紋は、
ひろがり、わたしの骨になって。
わたしは、どこまでも遠い夢の欄干を見つめながら、
みずのように流れている。
忘れられた夢の都会のなかで。
銃弾のような棘を抱えて。
戻る 編 削 Point(24)