シチューを煮込む鍋のとなりで/若原光彦
 

ぼくは牛に馬乗りになり
背をこそげ落としかき集め 鍋にたたき込む
だんだん息が合ってきたようだねとぼくは思う
牛が もうやめてくれ といった目でこっちを見ている
お互いの仕事をしましょう とぼくは古代牛語で言う
牛はぶるぶる震えながら
きわめて控えめに おそるおそる腹筋をはじめる
そうだよ とぼくは牛をほめる
ほめながら牛の腹をザクザク刺す
切っては切っては鍋に投げ入れる
牛は歯をむき出しにし
鼻息を荒くして怒っている
鼻の穴がぺこぺこ開いたり閉じたりしている
どう見ても笑いをかみ殺しているようにしか見えない
ぼくは牛のくちびるを裂き舌を抜く
尾と骨と首だけになっ
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