「 蒲鉾と犬と、月。そしてあたし。 」/PULL.
れた犬に物欲しそうに見上げられて、
あたしはまた、
泣きたくなった。
でももう泣けなかった。
だからあたしは見上げた。
それがこぼれ落ちないように、
あの夜よりも明るい夜空を、
あたしは見上げた。
夜空には、
つるんとした、
まあるい月が出ていた。
まあるい月は、
やっぱり白身の練り物みたいで、
とっても美味しそうだった。
なんだか憎らしかった。
チョップした。
月はあっさり割れて、
落ちてきた。
半分落ちてきた。
あたしは落ちてきた半分の月を拾い、
もう一度チョップして、
半分の月をさらに半分に分けた。
それを犬にやった。
犬はきょとんと
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