九龍城砦/和泉蘆花
「へぇ、よかったね」
「助かったーって思ったわ。煙草のない散歩なんて考えられないから」
「夢の続きは?」
「そこでお終いなの」
「それは残念。楽しくなってきたところだったのに」
「あなたはいい人に見られたいのかしら?」
「悪く見られるよりはね」
「どうかしてるわ」
「どうかしてる」
「私ね、昨日すごい夢を見たの」
「どんな夢?」
「それが何もかも思い出せないの」
「九龍城砦に行った。そういうことにでもすれば?」
「何よそれ」
「コンクリートの山の上で、煙草を吸っていた。そういうのってどうかな?」
「悪くないわ」
「相変わらず、君は変な趣味をしている」
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