九龍城砦/和泉蘆花
る」
「それより、空想の続きは?」
「君は煙草を数本吸った後、建物の中に入るんだ。真っ暗な入り口へ吸い込まれるように」
「怖そうだけど、私そういうのって好きだな」
「剥き出しにされた電線や設備管が天井を這っている。黴臭い匂いに緊張する。壁から電球が突き出るようにしてある。そしてその怪しげな明かりを頼りに足を進める。投げ出された生活具を避けながら君は廊下を歩く。中途半端な長さの紅い絨毯。意味不明の落書き」
「面白いわね」
「君は建物から建物へと飛び移る。三階を歩いていたと思ったら、次の建物では五階だったりする。まるで迷路の中にいるようだ」
「三階が五階ってどういうこと?」
「五階は七階という意味だ。隣接した建物が廊下だけでつながっているんだ」
「夢紬ね?」
「話を続けていい?」
「ちょっと待って。私、煙草が切れちゃった。買ってくるわ」
「九龍城へ?」
「コンビニよ。煙草がないと私、駄目なの」
「話しの続きは?」
「また、後で聞くわ」
「それは残念。楽しくなってきたところだったのに」
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