武士と猫/佐野権太
 
あいかわらず武士だった
参代する日でもなかろうに
女房殿に渡された温かい包みを抱えて
坂を下ってゆく

*

何やら人垣ができていて
たいそうな賑(にぎ)わいである
隣の女房が遅い遅いと手招いている
あそこだ、と指差す先から
鉢巻を巻いた隣の息子が
斜めになって走ってくる
どうやら、かけくらべのようである
と、体重をのせた外側の足が滑って
どどう、と転げた
が、目は死んでいない
全力で崩れ落ち、全力で走り去る
その姿に胸を突かれ、さめざめと泣いた
殊勝でござる

*

騎馬戦と聞いて胸が高鳴った
拙者にもいささか経験がござる
背伸びしながら布
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