武士と猫/佐野権太
 
ら布陣を確かめる
(それっ、かかれ、回り込むのだ!
(ええい、何をしておる
(総懸かりじゃ!
(法螺(ほら)を鳴らすのじゃああああ!
人垣を掻き分けて
前に出ようとした刹那
屈強な若者に襟をつかまれた


**


匂いを辿ると武士だった
弁当に箸を突きたてたまま
対岸の薄(すすき)が順番に傾いてゆくのを見つめている
にゆぅーと甘えると
白い飯と煮大根が蓋によそられた
首を伸ばして、しゃくしゃくいただく

*

転んだ幼子
母親が駆けよるより早く
腰を浮かした武士を
背中で感じていた

*

雲が流れてゆく
変わってゆくかたちを追いかけて
ぼんやり、鳴いてみる
厚いぬくもりが耳をたたむから
目をつむらずにいられない

[グループ]
戻る   Point(21)