虚空に繁る木の歌   デッサン/前田ふむふむ
 

曲折するひかりを足に絡ませて、草むらにみえる、
赤い窪みに、眼から横たわる。
それから、徐に、長い旅の記憶を攪拌して、
老婆たちの伴奏で、追想の幕をあげるのだ。

      1

海原の話から始めよう。
それは、真夏であるのに、ほとんど青みのない海である。いや、その海は色を持っていたのだろうか。どこまでも、曲線の丸みを拒否した、単調な線が、死者の心電図の波形のように伸びている海である。時折、線の寸断がおこり、黄色の砂を運んでいる鳥が、群をなして、わたしの乗る船を威嚇する。わたしは、その度に、夥しい篝火を焚いて、浅い船底に篭り、母のぬくもりの思い出を頬張りながら、子供のように怯え
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