詩と詩論(その一)/生田 稔
 
いとヾし心痛むかな

 どの部分を最も感じたかと言えと言われるなら、私も戸惑う。しいて言うならば終連に最も惹かれた。旅路の果てを歌うのであろう,“いとどし心痛むかな”と結んでいるところに余韻ありて良し。逆にたどると、“酒うる家のさざめきに、まじる夕べの雁の声”のところも音声を描出しているのが響く。もうこんな詩をつくる詩人は現代にはまれである。形而上学などといい、意味を汲むのが難しい詩が多くなった。世情人情にとることに詰まり、異常な世界に入っていこうとするからだろう。でも詩をかき詩を読むことにつとめて携わることは、なんと言っても健康に良い。酒や遊里や恋愛をうたわずとも良い、私は不快なとき、苦しい
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