詩と詩論(その一)/生田 稔
 
界に入ってゆけ。では彼の別の詩に移ろう。
 全部で8篇の詩が上げられているが、そのうちからとなると取捨に苦しい。読者の安易さに組して、、4連からなる詩を上げるに留める。
    秋和の里
月に沈める白菊の
秋冷(すさ)まじき影を見て
千曲(ちくま)少女(おとめ)のたましいひの
ぬけかいでたるこゝちちせる

佐久の平らの片ほとり
秋和の里に霜やおく
酒うる家のさヾめきに
まじる夕べの雁の声

蓼科山の彼方にぞ
年経(ふ)るおろち棲むといへ
月はろばろとうかびいで
八谷の奥も照らすかな

旅路はるけくさまよえば
破れし衣の寒けきに
こよひ朗らのそらにして
いと
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