偽りの境界線の上で/AKiHiCo
がいるんです。ほら、」
鏡の中から蒼白い腕が伸びてきた。起こるはずのない現実が目の前で当たり前のように進んでいる。細い指が僕の脚にしがみついて氷のような痛みを与える。意識の糸が切れてしまいそうなほどに内側に響く冷たさが僕を襲う。
誰だっけ。鏡に映っていたあの人は誰だっけ。僕だと思うんだけど、鏡の中から飛び出してくる事があるだろうか。疑問符だらけの頭を整理しようと指をそっと唇に当てた。違和感を覚えた。
「あれ? 僕は僕だよね、」
引き攣った微苦笑が自然と現れ、身体の力が抜けていった。脚が重たくて動かせない。動かす努力はしていないけれど。僕が僕じゃない感覚。じゃあ、一体この感情は誰のもの
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