偽りの境界線の上で/AKiHiCo
ものなのか、整理しようにも僕以外の人物を知らないから当て嵌めようがない。ここはどこなのかさえ判らないのに僕が誰なのかなんて最初から判らないに等しかったのかもしれない。
瞼を閉じれば拡がる緑柱石の世界。そこは美しく、濁りのない透明だけが息をする街。僕じゃない誰かが創り上げた空想の中で何もかもが、あの色に染まるばかり。誰かが大好きなあの色。色の名前さえ曖昧に虚ろで掌に灯す白い炎だけが支えとなって、今の心を確立させている。
そこに逆さまに映るのはエスと呼ばれた誰かの姿。鉛の枷が、荊が喰い込んで赤く滲んだ細い脚だけが浮き上がって見えた。軽く息を吹きかければ、炎は揺れて、あの人が椅子から倒れてしまった。床に横たわる身体に纏わせた純白の衣装はあの人には重すぎたのだろうか。呼吸をしているか否かは傍まで行って確かめる必要さえない。
「そういえば、エス。貴方の瞳はこの緑柱石の欠片で創りました。」
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