サトリのことは考えちゃいけない/佐々宝砂
べ続けて、何も考えないで逃走するのだ。これはけっこううまいやりかたで、僕は何度もやつらから逃れた。「もういちどやってみて」と僕は言う。彼女の目の色が微妙にかわる。「洩れてるわ」とおばあさんが言う、「結婚したいって思ったでしょ」「すみません、それ思ったの、たぶん、僕です」「あら。望みはちょっと薄いわ」おばあさんが言う。わかってるってば、わかってるけど言わないでくれ。なんて笑ってる場合じゃない。僕の彼女の顔が白い、本当に白い。何も考えていないのだとわかった。本当に、何も、何一つ、考えていない。おばあさんに訊ねる、「彼女、何か考えていますか」「考えていないわね、たいしたもんだわよ、とりあえず、安全ね」ほ
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