サトリのことは考えちゃいけない/佐々宝砂
にびりびりした感じ、誰もが驚いているような。でもいいんだ、これでいいんだ、彼女が教えてくれた場所だ。彼女と僕はドアの中に入り込む。暖かい雰囲気の部屋だ。隣の部屋でミシンの音が聞こえる。作りかけのシャツが壁一面にかかっている。シャツの工房みたいだ。レモンの目をしたおばあさんが出迎えてくれる。「たいへんだったねえ」僕と彼女は部屋の奥の木の椅子に座る。テーブルも無垢の木だ。
「何度も練習したじゃないか」と僕は言う。「でもできないのよ」彼女が答える。僕が考案したのは、歌詞のある音楽を頭の中で歌い続ける、できれば映像付きで、という方法だ。やつらは僕らの心を読む。だから音楽と映像と歌詞を頭に思い浮かべ続
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