サトリのことは考えちゃいけない/佐々宝砂
 
け?」私が言う、笑いながら。彼女が私のおでこに軽くキスする。「このくらい」と笑いながら。彼女は信頼おける仲間だ。私は彼女に手を振り、ホームで別れる。

地下道。地下鉄駅の改札の前。華奢な男が狐顔の女性と並んで歩いている。年は同じくらいか。女の方は知らない顔だが私のお仲間だ。男の方がやばい状況にある。追われている、やつらに。それはわかる。でもなんだか変だ。しかし危機的状況だ。入れ替わる。いつものように。

地下道の右側にだらしなく座っている男、ホームレスだ。たぶん。なんだか僕に似ているけれど。僕はどすんと地下道の左側にあるドアに体当たりした。ドアが開いた。空気が変わった。地下道の側は奇妙にび
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