サトリのことは考えちゃいけない/佐々宝砂
りがついてない部屋の半分だけが明るい。月光だ。月光が入ってくる窓は大きく、信じられないくらい大きな月がそこから見える。窓のまわりはドライフラワーで装飾され、古拙なヨーロッパの意匠に似ている。シェフ自身が料理を運んでくる。「もうだいじょうぶね」彼女が言う、私は答える、「そうだね」料理は彼に食べさせてやろう、と私は考える。
ぽん、と場面が変わる。夜のグランドの隅で、ユニフォームの少年がほうけた顔で立っている。私は彼に投げキッスを送る、少年は一瞬すべてを理解し、一瞬のうちにそれを忘れてしまうだろう。私と彼女は腕組んで地下鉄駅へ。「今夜も自分を売ってしまったわ」と彼女が言う。「どの程度に売ったわけ?
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