■批評祭参加作品■夭折をあきらめて夜が明けてゆく/岡部淳太郎
 
いう観念を中心にして読むと先ほどの「秋日狂乱」のような淋しさと虚しさを湛えた詩ばかりが目につくのだが、夭折から生の方へ目を向けて読んでみると、かつては目に留まらなかった詩が心にしみた。


{引用=月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
なぜだがそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂(たもと)に入れた。

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
月に向つてそれは抛(ほふ)れず
浪に向つてそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた
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