助からなかったもの/鴫澤初音
零れていくもの。
今日も白衣を着ていた朝、ロッカルームから出てくると、
弓ちゃんが反対側の扉を開けて、私を見て笑った。
「初音ちゃん、もう来てたの? 久しぶり!」
羽みたいだった。上唇に押し当てた指から花の匂いがし
た。きっと三月さんの香水の匂いだと思った。
「弓ちゃん、昨日さ、高さん泣いちゃってね、」
「え、どうしたの?」
「ここにいるのがつらいんだって」
「ええー? 何で?」
眉をしかめて、弓ちゃんが苦そうに言った。思い出して
るだろう、高さんの顔は、そういえば、いつも悲しそうな
笑顔ばかりだった。つらい、罪悪みたいに絞りだすよ
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