助からなかったもの/鴫澤初音
 
すように、
 申し訳なさそうに言った高さんのびっしり生えた睫毛から
 涙が曇って、落ちていった。
 「さあ、やっぱり仕事きついんじゃないの」
 「そうかなぁ…」
  弓ちゃんにはわからないだろうな、と思った。弓ちゃん
 のように素直で生きていくことを何の曇りもなく信じてい
 る人には。弓ちゃんは全ての女の子がなろうとして、なれ
 ない女の子だった。自分の美しさや素直さに無頓着で、そ
 して誰であれ人を受け入れることを自然にできる。そして、
 自分が人にどう映っているのかまるで気にしない子だった。
 私は弓ちゃんが好きだったし、そんな生き方もあるんだと
 ようやく知ったけど、彼女の生き方を魅力的だとは思わな
 かった。人が本当に幸福だと感じる瞬間が彼女と私とでは
 違うのだろう。私は他人と比較することでしか幸福ではい
 られない自分を快く思ったことはなかったけれど、それは
 実際、事実だったし、今のところこのラインから脱却する
 すべを知らなかった。立ち止ったまま。

  壊れていくもの。

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