机の上に射し込む光の川/道草次郎
 
 とある事業所で働いている。四時の会議の前に五分だけ時間があったので、久しぶりに声をかけてみた。その、文学好きの女性の利用者さんは待ってましたというように、堰を切ったように早口で喋り出す。ぼくがふだん余りに忙しそうにしているので、遠慮して話し掛けるのをいつも躊躇うそうだ。

 道草さんに聞きたいことがあって、と彼女は唐突な雰囲気で切り出す。
「いわゆる海外の名作、古典と呼ばれる小説の新訳が出ますよね。そういう時は道草さんは目を通されますか?」
ぼくも早口で答える。
「そうだね。名作の新訳は結構出るよね。でもぼくの場合はまずは図書館で借りてさらっと読んでから、気に入ったら買うかも知れないな
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