Memory Trains?「岡山駅」/SDGs
 
「10分停車らしいから、ひげ剃ってくる」
そう言って父は急行「筑紫」から降り、ホームの洗面台に向かった。時刻は夕方5時頃だった。冬のしかも正月の夕方5時といえばもう暗い。その分、ホームの蛍光灯は明るすぎるくらい明るかった。

昭和31年正月、私たち家族四人は、山口県下関から海上安全の御利益があるといわれる兵庫県加古川の「白旗観音」に向かっていた。父は船に関係する仕事をしており、一念発起して正月に参詣することにしたようだ。

「10分停車らしいから」。それは父が言ったのか母が言ったのか。わからない。でも確かにそう聞いた気がする。それに急行「筑紫」といったが、それも定かではない。「筑紫」を利
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