長い失読の状態について/道草次郎
 
個人的な事で恐縮だが、ずいぶん長いこと失読の状態が続き、もう、右も左も訳も分からずいることが多くなる近頃にあって、一つだけ読める文章がある。

その文章はたったの十五行である。岩波文庫版 柳田國男著『遠野物語 山の人生』収録の「山の人生」冒頭の不幸な女の話だ。

ご存知の方もおられるかも知れないが、もしご存知なければとても短い話なので、お読みになってみてもいいだろう。

九州のとある町に住む若い女が男と逃げて、生活に困窮し、故郷へ恥を忍んで帰ってみると身寄りの者はみな死んでおり、赤ん坊ともども親子三人で身投げをしてしまうという話である。結果、女のみが死にきれず生き残り、刑に服すこと十二
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