Happy Birth 4 stations/komasen333
その車両には誰も乗っていなかった。ドアが開いて乗ってみると、燕尾服を着た一人の老紳士が立っていた。「ようこそ」と、しっかりと距離感を保った声でお辞儀され、こちらも軽く会釈した。車内はよくあるメトロの構造。ただ、中吊りを始めとする広告はなく、乗り降りの際の安全を訴える車内アナウンスも聞こえない。製造されたばかりの車両であるかのように、きれいなつり革と座席と車窓が車内灯に照らされてよく目立つ。
メトロが動きだしてから、ゆっくりと左右の車両を見渡してみた。この車両と同じように誰も乗っていない。さっきの駅で乗ったのは私だけのようだ。老紳士に色々と尋ねようか悩んでいるうちに、メトロは次の駅のホームへと
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