写真家の春/阪井マチ
個展を開いてから死にたいと思った別離は、安価で借りられるギャラリーを探して狭い街を訪れていた。気怠さが頭の表面に集まって髪の毛の先端から逃げていく、というイメージを強く抱いていた。そのイメージが自分を解放してくれると信じていたが、この幻想に対して支えとなる物語を与えることに失敗し続けており焦りを覚えていた。せめて挿絵の代わりになればと思い、住居の周りを歩く人の姿を写真に残すことを続けていた。その写真で壁と天井が埋め尽くされた頃、もう解放されることがないと分かったので髪の毛を切るのをやめ、鈍色の細い道で言われるがままの生活のなかで消耗していった。
――別に構わないよ。予算もあんたの出せるだけで
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