写真家の春/阪井マチ
けでいい。
ギャラリーの主人はあっけなく別離の申し出を受け入れた。狭い街の吹き溜まりに高い店舗を持つそのギャラリーはとても営業しているようには見えなかったが、壁の至るところに肌が露出したかのようなフィルムが貼り付けてありそれが現在の展示物であるようだった。
構わない。ただし、と主人は言葉を続けた。個展を開くには持ってきて欲しいものが三つあるんだ。
まずはキリンの脚の模型。二十年前に配信された映画のなかで主人公が持つ日傘の柄として使われていた実物。二つ目は割れた硝子の時計。蜘蛛の巣状にひびが入っていることが望ましい。最後はあんたの親の写真。顔が分からないように加工したものを持ってくるんだ
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