他人の車/道草次郎
 
たとえばちょっとした時、他人の車に乗らなきゃいけなくなって乗り込んだ途端、ああ人の匂いだなと思うことがある。その人の、ひいては生活者の匂いだな、と。消臭剤では隠し切れない微妙な生活臭及び体臭、あのそこはかとない異質な感じ、それらの一つ一つが混ざったようなむわっとした目に見えない何かが自分を取り囲むことがある。

ああ人の匂いだなと思う、と言ったけれど、じっさいはそう思うより先に嗅覚の方が反応をする。嗅覚が反応するということはつまりは脳が反応するということで、まず来るのはあからさまな拒否感だ。やがて不快感がそれに取って代わるだろうか。人によっては体に異変を生じる場合だってある。

何人での乗
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