始業の鐘/道草次郎
営農センターの方から多くの桃が北側の倉庫に運ばれて来ていた。
フォークリフトの爪が木製のパレットに引っ掛かかる時に出す苦しげな音が梅雨明けの北信地方に反響し、鉄で出来た軌条(レール)のような態度を四方に要求する。
空は朧気に白みがかり、妖しい索敵を思わせる湿潤な西風は濃緑な林檎畑を抜けトタン屋根の物置小屋へと辿り着こうしている。
放置された早生ワッサーが虚しく机に転がり、その上には幾匹もの小蠅が音もなく乱舞をしていた。
橙や紫、黄緑などの色とりどりの農業用コンテナを堆く詰んだ軽トラックが倉庫脇の隘路を溜息まじりに通って行く。
中空の何処からかサイレンが鳴り響く。
すると、制服に顔
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