モギリ / 冷たい大理石の記憶/beebee
 
 43年ぶりに高校の同窓会に出ることになって、卒業写真を探していると、古い写真入れの中から一枚の写真が出て来た。それは母の遺品の形見分けの際に兄から渡されたものだった。古い毛ばだった厚手のコートを着て、子供の私が母と歩いている。左手で母を引っ張りながらずんずん歩いている私の右の手は何かをしっかり握っている。私は突然それが何か分かった。そしてある事件を思い出した。母がこの写真を残していた理由もわかった気がした。
 あの時、子供の私は冷静だったと思う。両手に握りしめた商品タグをもう一度左手に握りなおし、大きな大理石の階段を降りて行った。いつの間にか家族とはぐれて迷子になっていた。私は覚悟を決めてどん
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