雨とモスキートコイル/MOJO
雨の日だった。皆が傘を持ち、その分、満員電車はいつもにも増して隙間が少なかった。他社線が停まる駅で、乗客の多くが降りた。乗り込んでくる客に押されながら、ようやく身体を入れかえると、目の前に見慣れた後ろ姿があった。ドラマーの保坂である。
「おい、保坂、ちゃんと練習してきたか?」
保坂は応えない。
「てめーは朝からシカトかよ」
おれは、保坂の尻の当たりを傘の柄でグリグリと弄る。それでも保坂は何も言わず、混んでいる車中で、おれから離れようとする。おれは意地になって、保坂の尻を傘の柄で突く。学校から最寄りの駅までその行為はつづき、扉が開いて、学生たちは、押し出されるようにホームに散る。保坂が
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