ジャンヌ、雪の病室/田中修子
 
 あのひとは損な人だった。

 15歳くらいまでにやられたこと言われたことがえげつなすぎて、本当にいい思い出がない。やはり亡くなってスッキリした、と思うたびに、風穴が空いている自分を知る。

 ときたま必死に思い出す。あのひとが、あの女ではなく、お母さんであった日を。

 私の拒食が発症した次の冬の日、あのひとが肝臓を壊して入院していた。
 それでお見舞いに行った。

 私はお気に入りの、ガイコツみたいに痩せ細った体にピッタリ合う真っ黒いコートを着ていた。そう、あのひとが買ってくれたのだ。素敵な細身の黒いコート。
 
 そもそも地元の中学校に通いたかったのだが、あの女は、「あ
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