夢夜、三 「孔雀いろの鍵」/田中修子
Jと別れてあたらしい生活が始まっていたのだけれど、車の世界の帰りだというJがこの家へたずねてきた。
ただあたらしい生活と言っても、螺旋階段を一周して、すこし昔に帰っただけのような気がする。奇妙な、少女たちがなにかと戦う世界へ。
そこで新しい人と、恋をしていないのに恋をしている。戦う世界は懐かしくて馴染んだものだったけど、折にふれてJのことを思い出していた。私の胸にともる唯一のあかりであったから、Jを忘れることは生涯できない。忘れてしまえば私は、冷たいさみしいオバケになってしまう。
それほどにJのことが好きだったけれど、きっともう恋人とか夫婦にはなれないだろうと思っていた。男と女は
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)