チューしてあげる/島中 充
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優に百メートル超える長い土塀に囲まれた屋敷の前を通って、ぼくは毎朝、小学校へ通った。広い屋敷の庭には松の木や樫の木がうっそうと繁っている。白い土塀のかわらの上に木々が暗い森のように見えていた。昔大地主であったなごりに、「平井家さま」とこの屋敷だけが「家(ケ)さま」と付けられて呼ばれた。土地の呼び名もここら一帯は平井家と呼ばれている。この地域で昔から畏敬の念をもって迎えられる特別な屋敷である。だが、戦後の農地解放でほとんど総ての田畑を平井家は失ってしまった。ただ白い土塀の大きなやしきが残っているだけだった。ケイコはその没落地主の三人兄弟の末娘である。
平井ケイコとぼくは幼
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