{注=コリン・ウィルソン著 『わが青春わが読書』柴田元幸監訳 学習研究社 1997.1
フロベールのボヴァリー夫人のように、本を読みすぎて、実生活もまた作り物だ――あるいは冗談、作り話、嘘だ――と信じてしまう人物も現れる。十九世紀においては、才能ある多くの人間が自殺を遂げたが、それは、現実と夢が交錯し、たがいの輪郭を曖昧にしてしまうような両義的世界を生きていたからだ。このためド・クインシーやコールリッジは阿片に、ポーはアルコールに、ベドーズは自殺へと追いやられた。ショーペンハウアーはこのジレンマの本質をとらえて、『意志と表象としての世界』というタイトル自体にそのことを表現した。……