傷跡/島中 充
傷跡
一八才の少女は右手にカッターを握り、タイルに座り込んでいた。湯気が立ちのぼり、蛇口から湯の落ちる音がうるさかった
四年生の時、体育の授業で一輪車乗りがあった。優しい先生の手に支えられ、ヒョイとまたぐとスルスルと前に進んだ。「上手ねー」と先生にほめられた。ほめられることなどほとんどなかった少女は嬉しかった。一輪車が買って欲しくて仕方なかった。しかし、おかあさんに頼んでも買ってもらえるはずなどなかった。家は貧しかったが、貧しいから買ってもらえないのではない。愛されていないから、可愛くないから、買ってもらえないのだ、と少女は思っていた。四種類のカー
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